悔恨の表情のまま横川は手につけていた指輪を外して三好に手渡した。その指輪の裏にはアルファベットと九月二十九日という文字が刻まれている。

「つまりプロポーズをした翌日の九月三十日に久原真波さんは失踪したということですよね」

「そうです。だからこそわかりません。でももしかしたら僕との結婚に迷いを感じていたのかなとか、いろんな想像を巡らせました。あの日から彼女の携帯にときどき発信をしますが、電源が切れている訳じゃないのです。まだどこかで誰かの助けを待っているかと思うと」

そういうと横川は何かに怯えるように両腕を掴んだ。三好は香水の匂いを抑えるように鼻を触った。

「真波さんが普段行かれる場所にお心あたりはないでしょうか」

「真波は社交的な方でもなかったですし、飲みに外出することや、派手な生活を送るような女性ではありません。最近は絵を描くことをやめていましたが、出会った頃は絵の具とスケッチブックを持ってよく出かけていました。ご両親も早くに亡くしていましたので実家もありませんし」

「なぜ最近は絵を描かれなかったのですか? 美術大学に進学するくらいですから絵は真波さんのライフワークだったはずですよね」

「さあ、わかりません」と横川は首を横に大きく振った。三好もその言葉に不透明さを感じつつも耳を澄ませていた。

「すみませんが、最後に聞かせてください。あなたは当時から、真波さんが家出や自殺などではなく、誘拐など事件性を示唆されていました。その理由をお聞きしてもよろしいですか」