講堂を埋めた男女社員たちはノリノリで身体を小刻みに震わせる。

主催は労働組合だから、参加者は組合員であるが管理職の顔もちらほら見える。当方は来る人拒まずの姿勢だ。

実は、バンドメンバーにとっては残念ながらこれが最初で最後のステージであり、年が明ければグループは解散してそれぞれの道を進むことになっている。メンバーの転勤が理由だが、会社員である以上、転勤は避けられないし、新入社員の分際で断ることなど出来るわけがない。

グループのレパートリーは三十曲ほどあるが、このパーティーではその中の数曲を演奏することになっている。

『バンブルビーツイスト』によるオープニングの後、

『ルシア』が続く。

司会役の三嶋啓輔(みしまけいすけ)が次の曲を紹介し場の盛り上げを演出する。

『ワイプアウト』に移るとドラムスの高山がおれの出番だとばかりに、気持ちをドラムにぶつけ思い切り叩き続ける。石岡、近松、加藤の三人は高山の引き立て役に徹する。

そして、テケテケテケテケの三連弾『パイプライン』『ダイアモンドヘッド』『十番街の殺人』で宴は佳境を迎え、皆踊り狂っている。

司会の三嶋が気合の入ったひときわ大きな声で次の曲を紹介した。

「次は大ヒット曲アニマルズの『The House of the Rising Sun 朝日のあたる家』でーす。ど、どうぞ!」

みんなから「おーっ!」と歓声が上がった。

分散コードのイントロが始まると、上手から一人の女性が登壇したのだ。

再び三嶋が紹介する。

「庶務課所属の佐野エリカが歌います。大きな拍手を!」