【前回の記事を読む】初めてのパリ。“CHAMPS-ELYSEES”を“シャンゼリゼ”とは読めなかった。――そんな時に道路の端で女性が
四、 サハラ砂漠用タイヤ
車中で大田原は、
「時間を有効に使うために、ここでアルジェリアの概況をご説明したいと思います」
と言って、A4の用紙にまとめられたメモを加藤に渡し、それをベースに説明を始めた。
アルジェリアの国土面積は日本の六・四倍あるが、北部アトラス山脈以北の緑地帯を除き、国土の大部分が砂漠地帯になっている。人口は約千七百万人で、その内九〇%が北部の緑地帯に住んでいる。
北部は地中海に面しているために比較的温暖な地中海性気候だが、アトラス山脈を越えて南に行くに従って冬と夏、朝と夜の気温差が激しく降雨量の極端に少ない砂漠気候となる。
原住民はベルベル人であるが、古代からローマ帝国、サラセン帝国(アラブ)、オスマン帝国そしてフランスと、大国から支配され続けてきた歴史がある。壮絶なアルジェの戦いによって、一九六二年にフランスから独立し、独立後は、社会主義化、イスラム化を急速に進めている。
簡潔明解な大田原の説明で、加藤はこの国がたどってきた過酷な過去を知り、この国のこれからの発展に少しでも貢献したいとあらためて気を引き締めた。
「当面我々がこの国に貢献出来ることはサハラ砂漠を走れるタイヤを開発することです。リビアの砂漠でテストをやって問題点はほぼ出尽くしました。その改良スペックのテストタイヤをこのアルジェリアに既に投入しています。その評価を急がなければならないのです」と、大田原に言って、
「そのテストタイヤの調査に、今回滞在中に行きたいのですが、可能でしょうか?」
と聞いた。
「テストタイヤはサハラ砂漠の中の石油基地に行かなければ見れません。石油公団に話してあり、早速現地訪問いただくことになっています」と大田原は言った。
加藤の胸が高鳴った。