春は砂嵐の季節だそうで加藤は揺れやトラブルを心配したが、アルジェから南へ一千キロ、一時間半のフライトは順調だった。

オアルグラ空港への着陸時に窓から外を見ると、エンジンの逆噴射ですさまじい砂埃が舞い上がった。それは歓迎の砂の舞のように思えた。

石油公団の技術者であるハリールという人物が迎えに来て、空港から四輪駆動レンジクルーザーでハッシメサウドという石油基地のある場所へ向かった。

予想通り三六〇度砂の世界だ。

砂のうねりが続く。非常に細かくてふわふわの砂のソフトサンドエリアでは四駆のレンジクルーザーでもタイヤが埋まって難儀な走行となる。

やはりタイヤには相当厳しい条件であることを加藤は実感させられ、レンジクルーザーよりはるかに大きい大型トラック用のタイヤがこの砂の上をスムースに走れるかどうか、心配がつのった。

ハリール氏が車を降りてタイヤの空気圧を下げた。タイヤがパンクしたようにぺしゃんこになり、接地面積が広がった。これでタイヤは砂に潜らず、砂の上に浮いたような状態になり、車は前に進むことが出来た。

砂のうねりの向こうに見えていた一筋の煙が、二筋、三筋と増えて、その根元に赤い炎が砂から吹き出ている。いよいよ油田に来た。

この基地近くに、整備された広大なトラックのターミナルがあり、二十台ほどのトラックが駐車していた。すべてメルセデスの三軸十輪、6×6(全輪駆動)の2624モデルで、積載時重量二十六トン、二百四十馬力の大型トラックである。

次回更新は6月19日(木)、21時の予定です。

 

👉『カスバの女』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「今日で最後にしましょ」不倫相手と別れた十か月後、二人目の子供が生まれた…。W不倫の夫婦の秘密にまみれた家族関係とは

【注目記事】流産を繰り返し、42歳、不妊治療の末ようやく授かった第二子。発達の異常はない。だが、直感で「この子は何か違う」と…