【前回の記事を読む】カフェのテラス席に陣取っている男たちは、通りを女性が通ると、食い入るように見つめながらその姿を追う。異様な光景だ
四、 サハラ砂漠用タイヤ
日本のタイヤ及びゴム工業製品の大手メーカーであるニホンタイヤはグローバル化を目指す中で、アフリカ大陸においては市場規模や影響力から見て、南アフリカ、エチオピア、エジプト、ナイジェリア、アルジェリアのマーケットへの参入が必須と見ていた。このうち南アフリカやエチオピア、エジプトには既に橋頭保を築いている。
北アフリカの一角にあるアルジェリアは、豊富な石油、天然ガスによって急速に台頭してきた市場であり、ビジネス拡大の可能性は高い。
しかし、ニホンタイヤの強力なライバルであるフランスのフランソワタイヤが現地に強固な地盤を築いており、参入のきっかけがつかめないでいた。
いずれにせよ、いつかはこのフランソワタイヤの地盤を崩さねばならないと判断し、一九七三年より進攻の時期を探るとともに、サハラ砂漠用新製品の開発を進めてきた。
市場に本格的に進出するにあたっては、その地に拠点を持ち、顧客と常時コンタクト出来る体制構築が重要だ。語学能力も必須である。
ニホンタイヤ東京本社海外本部にて検討の結果、自身で現地へ進出するよりも、既に首都アルジェに駐在員事務所を構えている七洋商事を代理店として起用する方が効率的と考え、七洋商事本店にこれを打診していた。
七洋商事にとっては、ニホンタイヤという超優良メーカーの商権が手に入るわけであるから断る理由はない。この申し入れを快諾した。
こうしてニホンタイヤと七洋商事による、アルジェリアへの進攻作戦が開始された丁度その頃、アルジェリアのブーメ大統領が大きな政策方針を打ち出すらしいとの情報が両社へもたらされた。
〈アルジェリアが真の独立国としてひとり立ちするために、旧宗主国であるフランスとの経済的関係を断ち切る〉という。これが事実ならばかなり思い切った政策である。
ニホンタイヤの方は実務面ではエジプト・カイロ駐在事務所がアルジェリアを担当市場の一つとして組み入れ、営業面を森本利夫(もりもととしお)、技術サービスを加藤清武(かとうきよたけ)が本格的にカバーすることとなった。