【前回の記事を読む】ブーメ大統領はフランスからの物資の輸入を禁止しようとしている。そこでフランソワタイヤに代わってニホンタイヤが…

三、 ブーメ大統領の悲願

「それは東京本店マターだ。このオフィスは駐在員事務所だから商売は出来ない。あくまでも本店の出先機関としての機能だ。本店の物資本部とニホンタイヤが話し合いをして決めてもらうことになると思う。でも七洋商事とニホンタイヤの関係は非常に良好だから問題ないのではないかと思う。さてここでコーヒーブレークといくか」

「三時の休憩時間ですね。ところでここの気候ですが、今は七月で真夏ですよね。でもアフリカのわりには過ごしやすい感じがしますが、どうでしょうか? 着任したばかりで感想を言うのは早いですよね」井原はすまなそうに質問したが、大田原はアルジェリア地図から世界地図の方に移動して、

「いや、到着したばかりの新鮮な時に感じることは結構大事だ。この地図を見ればわかるが、アルジェの緯度は日本の北関東ぐらいに位置し、所謂地中海性気候だからわりと過ごしやすい。もちろん南のサハラ砂漠は全く違った気候だが」と説明した。

井原は地図の日本とアルジェリアの位置を見比べて、

「あっ、そうですね。アルジェは丁度日本の真ん中ぐらいの緯度になりますねえ。意外でした。もっと南にあるイメージでした」と驚いた顔をした。

「アトラス山脈以北は気候がいいし、土地も農業に適している。だからアルジェリア総人口の九〇%がこの北部に住んでいるんだ」

大田原はそう説明し、地図から離れて会議テーブル用の椅子に座った。井原も大田原の対面の椅子に「失礼します」と言って座った。

「そうだ、このすぐ近くのカフェに行ってみよう。独立戦争の時に爆弾が仕掛けられて、多くのフランス人の死傷者が出た場所だ」と、大田原が言うと、

「はい、興味あります。是非」井原は弾んだ声で答えた。