二人はオフィス近くの一軒のカフェへ入った。カフェの中はアルジェリア人らしき男ばかりで、彼らの視線は、じっと外の道行く人に集中している。
「うあぁ、野郎ばっかりですね」
「ここがアルジェの闘いの時に爆破されたカフェだ。今は現地人のたまり場になっているようだが、見ての通り客はほとんど男だな。女がカフェに入るのは珍しいようだ」
喫煙者が多く、煙がもうもうとしている。水煙草パイプを恍惚として喫っている者もちらほら見える。
前の通りには結構人が行き来しており、その中には女性もいる。服装のイスラム的規制は弱いらしく、アバーヤと呼ばれるマントを纏っている女性は少ない。ほとんどが普通の格好だ。若い女性はかなり身体の線を強調した服装で、まるで「見てください」と言わんばかりである。
カフェのテラス席に陣取っている男たちは、通りを女性が通ると、食い入るように見つめながらその姿を追う。異様な光景だ。やはりここはフランスとは違う国だと井原は痛感した。
カフェオレを飲みながら井原は大田原の方を向いて言った。
「ところで大田原さん、仕事の話に戻りますが、もしこのアルジェオフィスがニホンタイヤを扱えるようになったら、私に担当させていただけませんか? 私は九州福岡の出ですから、ニホンタイヤの創業の地です。だからすごく興味があります」
「そうか、おれに言わせりゃ十年早いが前向きで結構だ。だがこれは所長マターだから、オフィスに戻ってから一応北山所長に相談しよう。今は所長室におられるはずだ」
二人はすぐにオフィスへ戻って、その足で所長室に行った。太田原が、井原への概況説明の経緯を報告し、井原の希望を伝えると北山は口調は柔らかいが文句は言わせないぞ、という姿勢を見せて言い放った。