空港から自宅への帰途カイロの古い町中を通る。昼間は車や人があふれ、クラクションや怒声が飛び交い、砂埃が舞い、蠅がまとわりつく雑然とした町だが、さすがに深夜となると人気も少なく静まりかえっている。
町中を抜けてナイル川にかかる橋を渡ると、中の島ザマレクに入る。
途中でオフィスに立ち寄り、たまっている書類と新聞を小脇に抱えて帰宅する。
表に立っている二人のキプロス大使館警備兵に「イザイヤック?」(元気?)と挨拶代わりに言うと、「タマーム、ハンブリラ」(まったくOKだよ)と敬礼してくれる。
すぐに穴倉のような管理人室からボアブ(管理人)が出てきて、
加藤のスーツケースをひょいと頭に載せて階段を上がる。六十歳ぐらいだと思うが元気だ。
ドアを開けようとキーを差しかけたら、その前にドアが開いた。あらかじめ電話をかけておいたから、妻の秋絵が気配を察して開けたのだ。
「お帰りなさい」
「うん、ただいま。子供たちは?」
「寝てますよ」
荷物をその場に置いて、加藤はすぐに子供部屋の扉をそっと開けた。二段ベッドの上と下にすやすやと寝ている。その寝顔を見ると出張の疲れが吹っ飛ぶ。
次回更新は6月17日(火)、21時の予定です。
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