【前回記事を読む】【カイトの謎への四つの仮説】柳田国男も解明できなかった謎多き地名。飽くなき探求心が私たちを地名研究の魅力へと引き込む――

第一章 カイト地名とは

一、 小字にのみ存在する地名

「はじめに」でも触れましたが、カイト地名には市町村名はもちろん、大字地名にもほとんどありません。ですからそんな地名は初めて聞くという方がほとんどだと思います。

私自身も小字地名の研究に関与して初めて知りました。ほかの小字地名が大字、市町村名になった例は少なからずありますので、カイトが市町村名に無いのは、カイト地名の意味が不明であったこと、カイトの面積が小さいことが要因であると考えられます。

カイト地名はかなり古い地名であり、文字が一般的に使われるようになった頃には、すでに意味がわからなくなっていたと考えられます。そのような地名がなぜ現在まで残ったのでしょうか。

地名とはその土地に住み始めた人々が土地上のある特定の場所を区切って付けた名前であり、住民全員が認知したものでなければなりません。

ほんの最近、昭和の中頃まで、郡上のような山間の村々では土地は最も大切な財産であり、細かく区切られた耕地や山林は多くの小字地名で管理されていたのです。

ですからその地名を変更すること等考えられないことであったと思います。あるまとまった集落(大字)内に同じ小字地名がほとんど無いこともそうですが、地名が変わって混乱すること等あってはならないことだったのです。

地名の意味がわからなくても近世になってからはひらがな、カタカナ、そして適当な漢字の当て字で受け継がれてきたのです。

それが子孫代々にわたって受け継がれていくわけですが、文字が一般化するまでは、ほとんど音韻のみで伝えられたものと考えられます。小字地名に意味不明な地名が多いのもそうした要因があるのです。

カイト地名も早くに意味がわからなくなっていますが、現在に受け継がれているのです。しかし、意味がわからなく且つ面積が少ないため、小字以上の地名に採用されることは無かったのでしょう。

地名の意味がわかればそれにこしたことはありませんが、要はその地名(音韻・呼び名)で特定の場所がわかれば事足りたのです。