はじめに
「カイト地名って知っていますか」
こう尋ねると、ほとんどの人が聞き返します。
「かいと? 初めて聞きました。どんな字ですか?」
「どこにあるの?」「どういう意味?」
知られていないのは無理もありません。カイトの漢字表記には「垣内」「貝戸」「開戸」「廻戸」「海道」等多数あり、カタカナで「カイト」と記されることもあります。また表音も「かいつ」と呼ばれ、「会津」「開津」「貝津」と漢字表記されたりもします。ほぼ日本全国に見られる地名です。
そして、カイトにはどんな意味があるのか? これこそまさしく本書のテーマなのです。
日本の民俗学の先駆者である柳田国男ですら、その由来を解明できず、現在まで決定的な定説は得られていません。柳田は『垣内の話』の冒頭で、カイト地名に興味を持ち始めた理由について次のように記しています。
垣内(カイト)は思いのほかこみ入った問題であった。最初からもしこれがわかっていたら、あるいはまだしばらくは手を着けずにいたかもしれない。