十分経っても三十分経っても一向に答えは出せない。通常だと十分もあれば答えを出すお気軽夫婦の私達だが、今回ばかりは言葉すら出ない。
このままどんなに長時間話し合ってみたところで、納得(なっとく)のいく結論(けつろん)は出そうになかった。
大阪で不思議な体験をし、翌日九州に戻ってから今度は病院で更に不思議な体験をし、自分が自分でないような、足が宙(ちゅう)に浮(う)いているような、妙(みょう)な気分だった。
何をしても気持ちは上(うわ)の空(そら)で、この不思議(ふしぎ)な体験(たいけん)ばかりを考えていた。
九州に帰ったら祭るように言われた神名のことは、勿論(もちろん)心の中には有るものの、寺に生まれた夫への配慮(はいりょ)から、ご住職様が私に手渡した神名の書かれた小さな紙を、私の部屋(へや)の押入(おしい)れの小さな引き出しの中に、取敢(とりあ)えず置くことにした。
姉からの誘い
病院で不思議(ふしぎ)な体験をしたその日の夜からだ。お姉様から連日連夜(れんじつれんや)、電話が掛かってくるようになった。
毎日、早朝より夜遅くまでの仕事の為、夜は一分でも早く眠りたい私だったが、お姉様から掛かってくる夜毎(よごと)の電話が楽しみになり、一分でも長く話したい毎日に変わっていった。
何よりも不思議な力を持つご住職様への興味(きょうみ)は尽(つ)きることがなかった。