【前回の記事を読む】胡散臭い姉と住職に惹かれ……夫と子供達の猛反対を振り切り大阪へ飛んだ私
第一章 夫の脱サラと妻に起こった不思議なこと
土地の権利書
そうこうしていると、いつの間にか大阪に到着していて、空港にはお姉様が今回もお迎えに来て下さっていた。約束通りだった。
しかし前回、私と息子が大阪に来た時に迎えに来て下さった車とは大きく違い、何故(なぜ)か業務用(ぎょうむよう)らしきライトバンだ。ライトバンの中には、ビニールに覆(おお)われたクリーニング済(ず)みの沢山(たくさん)の洗濯物(せんたくもの)がぶら下がっている。
よく見ると運転席(うんてんせき)の前や助手席(じょしゅせき)にも伝票(でんぴょう)や書類(しょるい)が雑然(ざつぜん)と有る。クリーニング店のライトバンのようだが、車体には店名等、何一つ書いてない。
何故お姉様が、業務用らしきライトバンに乗って空港に私をお迎えに来て下さったのかを想像(そうぞう)するが、それらしい答えがさっぱり出てこない。その上、前回と違い今回のお姉様の服装は、昔からとてもお洒落だった姉の服装ではない。仕事中だとしてもそれにしても妙だ。
すると、お姉様が、「乗って。クリーニングの仕事を済(す)ませてから自宅に帰るから」と言う。いつものお姉様の声よりワントーン低(ひく)い。夜毎(よごと)の電話で、お姉様は多忙(たぼう)な寺の仕事に専念(せんねん)しているとのことだったので、「寺の仕事は?」、とお姉様に聞いたが、答える様子はない。
つい昨夜(さくや)まで楽しく話していたお姉様とは全く別人(べつじん)で、狐(きつね)につままれた気分だ。何箇所かに立ち寄り仕事を終えたお姉様は、無言のままだった。しばらく走ると、とても古くて薄汚(うすよご)れた五階建ての集合住宅(しゅうごうじゅうたく)に到着(とうちゃく)した。