階段下(かいだんした)の集合郵便受(しゅうごうゆうびんう)けにはだらしなく郵便物(ゆうびんぶつ)が入ったままで、雑然(ざつぜん)とした自転車置き場にはチラシが落ちたままだ。こんなみすぼらしい場所に、お姉様は一体何の用事で来たのだろうと、とても不思議に思っていると、「着いたから、降りて」、とお姉様が言った。

着いたから降(お)りてって、まさかいくら何でも、ここが昔から貧乏(びんぼう)くさいことを嫌(いや)がるお姉様の住いだとは思えない。私をからかっているのかもしれないと思ったが、車に鍵(かぎ)を掛け無言で階段を上るお姉様の後ろ姿は、けっして私をからかってはいなかった。

私は急いでスーツケースを抱(かか)え、遅(おく)れないようにと上った。部屋に入ると、なお一層何もかもが貧(まず)しそうな生活が見て取れた。

若い頃から、お洒落(しゃれ)な姉は、服装(ふくそう)のみならず住いにもこだわりがあったので、今のこの住いはまるで別世界(べつせかい)だ。一体、何が起きているのだ。これは果(は)たして、本当に現実(げんじつ)なのか。私は、何が何だか分からなくなった。

ふと見ると、十年振りに見る二人の姪(めい)がとても大人っぽくなっていて、ほんの少し、安堵(あんど)した。外観(がいかん)も室内(しつない)も、全てが貧乏臭(びんぼうくさ)い2DKの集合住宅の一室に、どーも、本物の貧乏神(びんぼうがみ)の私が転(ころ)げ込んできたようだ。

お湯(ゆ)すら出ない古くて小さな流し台で、お姉様が夕飯を作って下さったのだが、食卓用(しょくたくよう)のテーブルはなく、全ての用事はコタツを使うらしく、コタツを囲んで四人で夕飯を食べた。四人で会話をすることはやはりほとんどなく、時折(ときおり)私が姪達に、「学校、楽しい?」と話し掛ける程度(ていど)だった。