食べ終えるとお姉様はテキパキと食事の後片付(あとかたづ)けを始めた。テキパキと片付けているのは、きっと今後のことを二人で早く話し合いたいからなのだろうと、そう私は思いたかった。

ところが、全く違(ちが)った。「ここ、使って」、とスーツケースを置いた四畳半(よじょうはん)の部屋を指差(ゆびさ)すと、お姉様は隣(となり)の部屋に娘達と入り、襖(ふすま)をパタンと閉めたのだ。

スーツケースの横に私も座(すわ)った。壁(かべ)にもたれ、座った。スーツケースだけが仲間(なかま)に見えた。

あの夜毎(よごと)の電話は何だったのか。高額(こうがく)な電話代が苦(く)にならないのは何だったのか。途切(とぎ)れることのない電話での会話は何が目的(もくてき)だったのか。慈善事業(じぜんじぎょう)の話は嘘(うそ)だったのか。それならご住職様の不思議な力もマヤカシだったのか。そんなはずはない。

疲れ切った頭で考えたところで余計(よけい)に分からなくなる。そんなことを考えていると、私はいつの間にかぐっすりと眠っていた。

どんなに疲(つか)れていても、場所が変わるとあまり寝付(ねつ)けない、やや神経質(しんけいしつ)な面が有る私が、四畳半の古い薄汚(うすよご)れた部屋にもかかわらず、一度も目を覚ますことなくぐっすり眠ったことは、私にとってはとても不思議(ふしぎ)な出来事(できごと)の一つとなった。

試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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