「おまえ、いい経験をしたようだな。目が生き生きしている」

自覚があるらしくカイは照れながら言った。

「俺もカクメイしたのさ」

「革命?」

「俺はもう前の俺じゃねえ。大筒の音が腹ん中にずしんと残っているんだ」

決起の事を言ってるのかと思ったが違うようだ。「いのちをかえる」革命のことだと意義は理解した。

「あの音が残っているうちは何が起きても負けねえ、って気がするんだ」

少年の声は清々しかった。

「ふ。羨ましい限りだな。こっちはあの一件で、自分の情けなさを思い知っただけだ」

「あん? さっきの仲間が言ってたぜ。蜂起は失敗したが、渡辺良左衛門っていう恐ろしい剣豪が役人どもを撫で斬りにして幕府側を震え上がらせてた、って。あんた、ここじゃワタナベなんだろ?」

「撫で斬り、か」

意義は太刀を抜いて、刀の表面を提灯に照らした。

「見ろ。どこに血脂が付いている? 俺はな、ここぞという大舞台でも人を斬ることなどできなかったのだ。その者が見たのは峰打ちに逃げた俺だ。刀だけじゃない。中筒で敵の砲術隊長を狙ったときも……」

思い出す。相手はこっちの虎の子・木筒の射手を狙っていた。ここだけは死守しなければならなかった。意義は砲術隊長の眉間を捉えたはずだった。だが、引き金を引くときに一瞬のためらいがあった。結果、外した。

次回更新は6月14日(土)、11時の予定です。

 

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