「奉行の面々か。遅きに失す!」

今や侍大将のような風格の土井の叱咤が飛んで、跡部と堀は震えあがった。

「そのう。身どもは市中の大火を見て、そのう……」

「後で聞く。砲を前に出せ!」

これ以上の失点は御免だ。本多が奉行二人をどかして、架車を最前線に押し出す。

「大筒や。しかも木ぃとちゃうぞ。鋼や。伴天連の大砲いうやつや」

「あかん。敵うわけがないで」

方々から弱音が洩れる。土井は一同の顔がこわばるのを確認してから本多に命じた。

「座興はここまでじゃ。逆賊どものど真ん中に撃ち込め!」

大砲が不気味な軋み音を上げながら、砲身を群衆に向けた。

「本多殿。名誉挽回でっせ」

坂本がにやにやしながら本多にささやきかける。カルバリン砲は前装式である。14キロもの鉄の砲弾がこれ見よがしに装填されていく。

「さあ。二百年前、大権現・家康公に天下を取らしめたカルバリン砲や。お主らもこの砲弾を浴びて、あの世で真田幸村に会うてこいや」

坂本が講釈師のように叛乱一党を見据えて脅迫する。

「ただ、こいつが破裂したらここにおる全員が木っ端微塵で、真田丸も誰が誰やらわからへんやろけどな」

鉄の弾が砲身を滑り砲の底に落ち着く。ゴーンという音が、固唾を飲む静寂の中に除夜の鐘のごとく響き渡った。それが合図だった。

「逃げろ!」

次回更新は5月31日(土)、11時の予定です。

 

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