【前回記事を読む】「退がれ、さが…」大塩平八郎の声さえ飲まれていく。本隊はもはや烏合の衆。今攻撃されればひとたまりもない…と、その時突然!
鼠たちのカクメイ
転
これはまた異なことを……土井は呆れながらも、先を聞いてみたくなる。
「城代よ。禄と申したな。禄の元は百姓たちが作った米であろう。米だけでは食には足らぬゆえ、魚や野菜も食う。これらは仲買や店を営む町人から買っておるわな。ならば武士が生かされておるのは幕府や藩主のおかげではなく、民のおかげや。その雇い主が危機に瀕しておるときに城代、お主や奉行所は何をしておった。謀反と言うのなら、お主らの所業こそが謀反ではないのか?」
「そうや、そうや」「大塩様の言う通りや」「あほんだら。ボケ、カス」などとあちこちから品のない歓声が上がる。土井のもとには一仕事を終えた坂本絃之助が駆けつけていたが、思わぬディベート合戦の場に立ち会う羽目となり(ほらな。やっぱり大塩センセは、教壇で一席ブチ上げたいだけやねん)と、苦笑いを浮かべる。
「謀反などではない。わしらの目的は、この旗印じゃ」
平八郎は地面に倒れている「救民」の旗を取り上げ振り回した。また「そうや、そうや。救民や」「天誅じゃい。ボケ、カス」などの声。土井は平八郎の方は見ずに、洗心洞の塾生らの背後に固まっている農民や町人たちを睨みながら言った。
「片腹痛し。民を煽動して事を起こしたところで、その民は末代までも罪人として扱われるのだぞ。それの何が救民か!」
土井の言葉に、途中から合流した者たちは急に夢から覚めた表情になった。え? そうなのか? わしらは「米をやるから付いてこい」と言われて従っただけ。それが、それほどの罰を受けることなのか? 今さら自分たちの立場を思い知らされ、波打つように動揺が広がっていく。
「天に背く前に足元を見よ。お主らは罪人なのだ。おとなしく縄を頂戴すればよし。抵抗すれば、殲滅あるのみ」
五十丁から並べられた銃口が、一斉に一党に向けられる。できるはずがない、官僚が民衆を傷つけることなど今の時代に…。
「やれるもんなら、やってみい!」
平八郎の言葉を遮るように、土井が軍配を下ろした。