危機感。今攻撃されればひとたまりもない。と、突然内側から門扉が開かれた。それすらも計算だったのだろう。集団は雪崩を打って一の門広場に倒れ込んでいった。

総崩れの群衆の中からようやく這い出た平八郎だったが、顔を上げて顔面蒼白となる。広場では五百人からの部隊が連なって大塩一党を待ち構えていたのだ。最前列には中筒を構えた鉄砲隊。そのうしろには弓隊が軒を連ね、さらに完全武装を整えた白兵隊が後方を陣取っていた。

(見事や。よほどの統率力がなければ、こうはいかん)

その統率者が、櫓の上に立つ土井利位だった。

「逆賊、大塩平八郎!」

土井の声は、広場と言わず大坂中に轟いたのではないかと思わせた。

「お上の直轄領・大坂で謀反の沙汰。あるまじき所業にて重罪」

おまえたちのしていることは逆賊による謀反だ、と土井は断じたのだ。

「わしが首謀者の大塩平八郎や。お主は大坂城代か」

平八郎は負けじと櫓に向けて吠え返した。

「土井利位である」

聞いた名だ。確か平時の水野、戦時の土井と並び称された次期老中候補。しかし勝手に断罪されてはかなわん。

「謀反とは言いがかりやが、その根拠は何か?」

「お主は、大塩家という与力の家系に生まれておるはずだ。すなわち代々お上の禄を食み生き永らえて来ておる。そのお主が雇い主であるお上に弓を引くのであれば、裏切り、謀反以外の何物でもなかろう」

当然の理屈だ、といわんばかりに土井は吐き捨てた。

「違う。わしらの雇い主はお上、徳川家にあらず。われら武士階級の雇い主は、すべからく民である!」

次回更新は5月24日(土)、11時の予定です。

 

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