「そうですよ。それにわれらには、この大砲がついてます」
標的でないふたりには後々の事を考える余裕があったし、置き去りにされた焦燥感も芽生え始めていた。
「まさに」
何かを宣言するように跡部が立ち上がった。
「今まさに、それがしがその戦術を口にしようとしていたところです!」
午後三時。大坂城一の門に大塩本隊が到着した。だが百名を超える人数が大挙したため、門前の通りで身動きがとれなくなっていた。
「おーい後ろ、退がれ」
先頭の平八郎は後方に指示するが、ネズミの集団は言うことを聞かない。
「米や。米や」
「いてえ。誰や、押すなちうねん」
「おどれこそ前向かんかい」
今や一党の大部分が、途中合流した農民や町人たちである。統制というものが利かない。
「退がれ、さが……」
平八郎の声さえ飲まれていく。壮大なる押しくら饅頭と化した集団が、これでもかと門を押していく。先頭集団は万力に挟まれるような圧に耐えねばならなかった。
(あかん。これは、もはや烏合の衆や)