【前回記事を読む】ああ、ぎりぎりの命のやりとり…俺はやはり、生まれる時代を間違えたな。――引き金を引くと、直後大男が倒れるのが見え…

鼠たちのカクメイ

午後二時を過ぎても奉行所に動きはない。自分の隊で実績を上げる一方、坂本は同僚の本多に跡部と堀のお守りをさせていた。なにせふたりの奉行は後事を援軍に丸投げして、自分たちは馬にも跨ろうとしないのだ。

「御奉行様。御城代の命令書をご覧になったでしょう。わが玉造口の隊は両奉行の采配のもと事に当たれ、です。貴殿らが動かねばわれらも動けぬのです」

そう諫言する本多に、跡部が恨めしい目を向ける。きやつらの狙いはこのわしなのだぞ。一歩奉行所の外に出れば待ってましたと大挙するに決まっておる、とは言えない。

「いや、本多君。これは戦術なのだ。即ち、籠城という」

鼻白むような詭弁。本多はため息をつきながら、鍛鉄製の大砲を見やる。よもや坂本はこれを見越していたのか?「本多殿はカルバリン砲とともに奉行所で留守居してくだされ。われらは中筒五挺もあれば十分、叛乱軍の相手はそれがしに任されよ」と言い残して行ってしまった。まさか、抜け駆け?

「いかがでしょうな。せめて大坂城に駐屯してみては?」

堀が跡部に進言する。こっちは多少まともか。

「すでに市中は大火。これを見て、われら奉行は城の守りを最優先にせねば、と思い立ち奉行所を捨ててまで参上した、という態では?」

跡部はまだ、ぽかんとしている。

「ああ、それはよろしいですな。ここから城は目と鼻の先。叛乱軍と遭遇することもありませんし、何より城内の方がはるかに安全です」

本多も後押しをする。