そんなことをぼんやりと思いながら谷口が打ちっ放しをする様子を見ていても、上手いのかどうかも分からない。元々ゴルフのことは何一つ知らなくて、テレビ中継だって一度も観たことがない栞には、想像した以上に退屈な時間だった。

一方谷口は栞を長らく待たせていることを気遣う様子も見せずに、黙々とスイングを繰り返してボールの飛んでいく先を見つめている。

谷口の練習は昼を回っても長々と続いて、しびれをきらした栞が大きく一つ伸びをした時、ようやく谷口が手を止めてやってきた。

「あー、ごめんごめん、見てるだけじゃいい加減飽きるよね。そろそろキリをつけるから」

一緒にいられるだけでいい。話もできるし。栞はそう思っていたのに、練習場を出て、アイスティーを飲んでいる時に谷口はこう切り出した。

「ごめん、実は今夜急にお通夜が入って、もう帰らなくちゃならないんだ。本当にごめん。この前、ほら、風邪ひいてキャンセルしちゃったから流石(さすが)に悪いなと思って、なかなか言い出せなかったの」

栞は谷口の唐突な言葉にショックを受けたが、それは谷口の説明がどこか言い訳めいて聞こえたからだ。

もうこのまま帰るの? つい、そう口にしそうになったが、お通夜だと聞けば嫌だと言うわけにもいかず、何と答えようか考えていた。

「ごめんね、同僚と一緒に行くからさ、時間とか色々相談したいから電話してくるわ。取引先のよくしてもらってる人のお父さんが亡くなったの」

そう言って谷口は、栞の言葉も待たずにさっさと公衆電話に向かって歩き出してしまう。

次回更新は5月13日(火)、21時の予定です。

 

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