父と春くんは中学高校と一緒なので、母とは高校の同級生である。

高卒で警察官採用試験に合格した春くんは、警察学校を出て、交番勤務となった。

非番の度に家に来ては、食事をして帰ることも少なくなかった。

「春くん、よかったら、お夕飯食べていって」

ふくちゃんがコーヒーをテーブルに置き、声をかける。

春くんは頭を上げ、「じゃあ、お言葉に甘えて」と言いながら父に目線を向け、肩に手を置いた。

二人は立ち上がると、僕とふくちゃんの前に腰を下ろした。父と春くんが、同時にコーヒーカップを手に取る。長い沈黙が続いた。

以前なら僕と遊んでくれた春くんだが、今日は真剣な表情で眉一つ動かさない。

父も腫れた瞼のままテーブルの上を見つめている。

「光、お部屋に行って絵本でも読んでようか」

ふくちゃんが、気まずい空気を打ち消すように明るく言った。

「うん」

それだけ答えて、その場を離れたが、母の魂は付いてこない。階段下から居間を覗くと、母の魂は赤とオレンジの二色に変わり、炎のように揺れている。危うく悲鳴をあげそうになり口を押さえる。父は見えているはずだが、平静を装っていた。

僕は静かに階段に座ると、扉の隙間から耳を澄ました。

「お前に聞きたいことがあるんだ」父の表情が険しくなる。

「一部のマスコミで出た沙代子さんと犯人の関係か?」

春くんが硬い表情で見つめ返すと、父は首を横に振った。