【前回記事を読む】「なにしてるのー?」いきなり聞こえた声に飛び上がる。振り返るとクラスで人気の女子がいた。彼女は死ぬことも恐れず俺に…
ボイス・リミット
ある日、屋上に行くと彼女が寝っ転がっていた。まるで次はお前が話しかけろよと言わんばかりに、いつも裕翔が寝ている定位置に寝っ転がっていた。
『寝てんの?』
音声アプリで話しかけた。
「私も寝っ転がってみたいなーって思ってたんだよね〜」
『どう?』
「落ち着くー」
彼女との会話にも慣れてきた頃、彼女は将来のことについて聞いてきた。
「岡本くんの将来の夢は?」
『夢は、特にないよ』
「ふーん」と、口を尖(とが)らせてつまらなそうな顔をした。
こういう質問をされた時は逆に聞いてほしいってことだと察して、すぐさま聞き返した。
『北山さんは?』
彼女は起き上がって言った。
「私はね、世界中を旅したい! いろんなところに行っていろんな人や動物と触れ合いたい!」
社交的な彼女らしい夢だった。
対して裕翔は将来のことなど何も考えておらず、まだ高校一年生なのだからと余裕をぶっこいていた。
『北山さんなら、何にでもなれるよ』
裕翔はその明るさを褒めたつもりで入力したのだが、彼女は少し悲しそうな顔をして「ありがとう」と言った。
それから少し間が空いた。
何にでもというのがまずかったのか、興味なさそうな受け答えになってしまったのかななどと考え込んでしまった。
これだけ使いこなした音声アプリでも、やはり生の声と声の会話に勝ることはなく、些細な入力ミスで誤解が生じることもあるのだ。
すると、別に何も気にしてないかのように彼女から口を開いた。
「動物好き?」
唐突な質問に、ほんの少し困惑した。
『まぁ、好きかな』
「じゃあ明日、動物園いこ!」