【前回記事を読む】世界中を旅したいという彼女に「君なら何にでもなれるよ」と褒めたつもりで答えた。だが彼女は悲しそうな顔をして…

ボイス・リミット

そもそも二人は屋上で会う約束などしていないのだから、来なくても不思議ではないと思った。

仕方なく帰ろうと屋上の階段を降りて教室の前を通ると、彼女が誰もいない教室で一人、自分の席に座っていた。思わず教室に入ると彼女は裕翔に気づき、笑顔を見せた。

何してるの? と裕翔は聞こうとしたが、それよりもどうして今日は屋上に来なかったの?かが知りたかったが、裕翔よりも先に彼女が口を開いた。

「パンダつけてきてくれたんだ! ありがとう。こないだは動物園楽しかったね」

『楽しかった』

やはり口と音声アプリとでは発声の初速が違いすぎて、いつも先手を取られて会話の主導権を彼女に握られてしまう。これは社交的な彼女に対して、裕翔の内向的な性格も関係しているのかもしれないが。

「私たち、噂(うわさ)されてたよ」

彼女は少し顔を赤くさせて恥ずかしそうに俯(うつむ)いて、小さな声で呟(つぶや)いた。

「二人は付き合ってるのかって、みんなに聞かれたよ」

どうやら二人が動物園にいるところをクラスメイトの誰かに目撃されたらしい。スクールバッグにつけているお揃いのパンダのぬいぐるみキーホルダーが、その噂に信憑性(しんぴょうせい)をもたらしていた。周りからの視線を感じたのはこのせいか。

彼女が屋上に来なかったのは、みんなに噂されて恥ずかしくなったからだと気づいた。裕翔は今しかないと思い、勇気を出して口を開いた。

「好きだ」

「え?」

裕翔が声を出したことに驚いてか、それとも好きだと言われたことに驚いてか、彼女は顔を上げて驚きと嬉しさが入り混じった可愛らしい表情を見せた。

「北山さんが好きだ!」