【前回記事を読む】昨日まであんなに元気だった彼女が急に死ぬはずがない――声だ。声の上限を迎えて死んでしまったんだ…
ボイス・リミット
二日後、葬儀は学校関係者も含めて執り行われた。
裕翔はこの二日間、食事は何も喉を通らず、放心状態だった。
葬儀に参列し、一人ずつお焼香をした後、彼女の顔を見ると、とても綺麗な顔をしていた。
眠っているだけのような顔をしていて、今にも起きていつもの笑顔を見せてくれそうに思えた。
「これからいろんなところ行くんじゃなかったのかよ」
裕翔は放心状態で涙を流して呟いた。
喪主の挨拶の時、彼女の父親は音声アプリを使って挨拶をした。
『この度はご参列いただきありがとうございます。桜空は、癌(がん)に臆することなく人生を全うしました……』
裕翔は自分の耳を疑った。
今度こそ聞き間違えかと思ったが、癌という単語を聞いてからそれ以降の喪主の挨拶が全く頭に入ってこなかった。
彼女は子宮頚(しきゅうけい)がんを患(わずら)っていた。
裕翔にはそのことを全く知らされていなかったため、喪主の挨拶で彼女の死因を初めて知った。
彼女の死は声が上限を迎えたからではなく、癌による病死だったのだ。
それが分かった時、喪主の挨拶の途中だったが、裕翔は気を失ってその場に倒れた。
目を覚ますと、裕翔は病院のベッドの上にいた。
どうやら葬儀場で倒れて救急車で運ばれたらしい。二日間何も食べていなかったので、体力が尽きてしまったようだ。