動物園を出ると、動物園が楽しかったのか可愛いグッズが買えたからか、彼女はとても機嫌が良さそうだった。
「今日はありがとう! いやぁ、楽しかったね〜」
この日、彼女と裕翔の会話の割合は九対一くらいだった。裕翔は頷いたり音声アプリで反応を示すだけだったのに対して、彼女は相変わらず口を開いて話し続けていた。
声を出し続けることに心配にもなったが、楽しそうに話し続けている口を閉じさせることなど、とても裕翔にはできなかった。
駅に向かって歩いていた帰り際のこと。
「パンダ、スクバにつけてきてね! じゃあまた学校で!」
そう言い残して笑顔で手を振り、裕翔に何かを言わせる間も与えず彼女は走り去っていった。
裕翔はこれが動物園デートだったということに薄々勘づいていたが、笑顔で走り去る彼女の姿を見てそれは確信に変わった。
月曜日、言われた通りスクールバッグにパンダのぬいぐるみキーホルダーをつけて登校した。
教室で彼女の席の方を見ると、彼女のスクールバッグにも同じキーホルダーがついていて少し恥ずかしくなった。
裕翔は普段教室で、彼女とはもちろん、クラスメイトの誰とも接することはないのだが、この日は妙に周りからの視線を感じた。
放課後、いつも通り屋上で寝っ転がっていた。自分のスクールバッグにぶら下がったパンダを眺めながら、彼女が来るのを待っていた。
しかし、日が暮れるまで彼女は屋上に姿を現すことはなかった。
次回更新は8月29日(金)、11時の予定です。
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