【前回の記事を読む】子供の泣き叫ぶ声、大人たちの悲鳴。ナイフを持った男が現れ辺りは一変! 子どもが襲われそうになったその時、駆けつけたのは…
第三章 別れと出会い
二〇二三年
病室に入ると父は、ぴんぴんしていた。
「あれ、光来たのか」
「ふくちゃんから電話があってさ。どうしたの?」
「ごめんなさい。わたしのせいなんです」
ベッドの横にいた女性が、頭を下げた。
「羽田愛梨(はねだあいり)さんだ」
父が彼女の名前を出した瞬間、僕は息をのんだ。彼女は十年前に、たった一度だけ会った母の生まれ変わりの少女だった。
父が目配せをしなくても、どんぐり眼で丸顔の羽田愛梨は、体が大きくなっただけで、十年前とさほど変わってはいなかった。
「羽田愛梨です」
羽田愛梨が丁寧に頭を下げる。
「あ、光です」
僕もつられて深々と頭を下げた。
「達彦さん、私を庇って怪我をして……。本当にごめんなさい」
羽田愛梨が、もう一度頭を下げた。
「そんなに謝らなくていいのよ。あなたが無事で良かったわ」
病室のドアが開き、ふくちゃんが入ってきた。
「軽い捻挫だけど、頭を打ったから念のため検査を受けて、異常がなければ明日、退院ですって、まったく、心配で生きた心地がしなかったわよ。車かと思ったら、自転車だなんて」
「自転車? 自転車にぶつかったの」