「わたしも、いいの?」

「ああ、二人で来てよ」

「光くん、ありがとう」

可憐は、花が咲くような笑顔を見せた。僕は恥ずかしさで可憐の目をまともに見ることができず、太郎に「じゃ、また」と声をかけ、その場を離れた。

第四章 真実

太郎が逝った二ヶ月後に日本は降伏し、終戦となった。あと二ヶ月早ければ、太郎は生きて故郷の土を踏めたと思うと、悔しさで体が震えた。

一九四五年九月、僕は故郷に帰り、あたり一面が焼け野原となった場所に呆然と立ちつくしていた。

丸の内の駅舎が焼失し、屋根が焼け落ちた東京駅だけが、ぽつんと取り残されたように寂しげに存在している。市街地の大半が焦土と化していた。

東京駅から自分の家があったはずの場所に向かって歩を進める。煎った豆のにおいが鼻を突く。

歩いても歩いても、自分の家が見つからなかった。

「一体、何のために戦ったんだ」

お国と家族を守るため戦地へ赴き、たくさんの仲間たちと命をかけて戦った。だが、どうだろう。目の前に広がる無惨な現実は僕の予想を遙かに越えていた。

「一郎くんか」

背後から声をかけられ振り向くと、向かいの家に住んでいたおじさんが真っ黒な顔で僕を見ていた。

僕が頷くと、おじさんは真っ黒な涙を流す。

「生きていたのか。良かった、良かった」

次回更新は6月26日(木)、20時の予定です。

 

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