僕が呆れたように言うと、「なんだよ、自転車だって車だろ」と父が、とぼけた顔つきをする。隣で羽田愛梨がクスクス笑う。

父は、そんな愛梨を愛おしそうに見つめている。彼女もまた、父の視線にはにかみ、頬を赤く染めている。同じ病室にいるふくちゃんや僕のことも見えていない。二人の世界が広がっていた。

「ふくちゃん、先に帰るね」

僕はふくちゃんに声をかけると、病室を後にした。

父と愛梨が醸しだすあの雰囲気は間違いなく、かつて父と母の間にあったものだった。年齢も容姿も全く違うが、二人は魂で結ばれているのだと、納得せざるをえない。

かつて小さな僕を抱きしめ、愛情を注いでくれた母の生まれ変わりだと確信してはいる。だが、現実に自分より七歳も年下の彼女を目の前にすると、複雑な気分だ。

そんなことを考えながら歩いていると、太郎と可憐が目の前の横断歩道を渡ってくるのが見えた。

「あれ、どうしたの? 事情聴取は?」

僕が聞くと太郎は、「終わった」とだけ答えた。

「どうしても心配だったから来てみたの。お父さん、大丈夫だった?」

今日会ったばかりの可憐のほうが心配そうに僕を見つめる。太郎も長い前髪で表情は分からないが、両手をポケットに入れては出してを繰り返している。

「ピンピンしてたよ。軽い捻挫でちょっと頭を打ったから検査結果が出たら退院できるって。心配かけてごめん」

僕が苦笑すると可憐は、「良かったぁ」と胸に手を当て、微笑んだ。

「ふくさんは?」

安心した様子の太郎が、病院に視線を移す。

「もうすぐ帰ると思う。それより、食事できなかったな。よかったら今度、二人で家に食事しに来てよ」

僕は内心、ドキドキしながらも平静を装って言った。