【前回の記事を読む】キリスト教。何か一つのことを信じる場。宗教。私にとって、どれ一つとっても、避けたい存在だ。

第一章 靴

【 二 】

「……ここと、似ているでしょうか」

「うん。あの教会なら夏春君もそれほどつらくなく、他の人と話し合う機会が持てるんじゃないかと思う。それに、宗教というものは、自分で思っているほど遠い所にあるのでもないよ。何かを信ずるということ。それは、私たちのごく身近に生きていることだから」

「……そう、でしょうか」「無理に勧めることはしないけど、解決の方法になるかもしれない。ほら、これがその教会の住所を記したパンフレットだよ。トラクト、というのだそうだ」

折り畳まれたトラクトを差し出されて、私はそれをおずおずと受け取った。

「……あ、この住所」

「知っているかな?」

「はい。私の自宅から、徒歩で二十分ほどの所です。そんな近くにあったんですね」

「うん。近いというのもメリットだと思う。もちろん、いつでもここに来て構わないけど、ラファと離れていたいのなら、いつもと違った人たちがいる場に行ってみるのは良い方法だと思うなあ」

それは、常々感じていたことだった。

私以外の誰かがいる場に行けば、ラファは自然といなくなってしまうことが多かったから。

一方、過去の私は、逆にラファの存在に依存していたから、一人きりでいられる自室へ籠もることを選んだものだった。

改めて思い出し、そして大きく一つ、頷いた。

「確かに、永ちゃんがやってくるとラファは姿をくらませてしまうんです」

「ここへ来る時は?」

「はい。家へ置いて来ました」

「ははは。それではラファさんは不平を鳴らしたでしょう」

「ええ。でも、あまりうるさいと、私も疲れてしまいます」

「そうだね。もしラファさんのことを優先しようとするのなら、ここに来る他にも、ここと変わりない姿勢で人びとを歓待している教会へ行ってみるのは、いいかもしれない」

しかし、本当に教会は先生の言う通りの場だろうか。今一つ信じられないような心持ちで頷いた。

「……考えてみます」

教会のトラクトを手に、診察室を後にする。