そんな気がして、落ち着かなかったのだ。
弟子入り志願・第一号のイケメン椿沢、第二号のオッサン岩崎。客席にどちらの姿もなかった。その時点でほっとひと安心するのだが、どうも落語に集中できないのだ。
弟子入り志願の二人の顔が浮かぶ。
どうしたら良いのか? ずっと、その思いが頭の中に充満していた。
ようやく高座を終えて、楽屋へ。喜之介の出番が終わって中入りとなる。
きのうと同じように、楽屋周りの世話をする若手落語家が「お疲れ様でした」と声をかけつつ喜之介の様子を慎重に窺っている。様子が変だ。そう思っているに違いない。
大正解!
実際、喜之介の様子は変だった。挙動不審。
その気配を感じてか、楽屋にいる後輩先輩の落語家仲間はあえて声をかけてこない。むしろ喜之介を避ける形で、自分たちだけでバカ話に興じていた。
まあ、今はそうしてもらうほうがありがたかった。 喜之介の頭の中にあるのは、弟子入り志願者のことだけだ。
イケメンとオッサンがやってきて本当に驚いた。
こんな俺に? 何で?
芸と人柄。それが自分を選んだ理由だということだったが、嬉しい気持ちもありつつ、ホンいぶかマかいな? と訝る気持ちも強い。
そして、三日目。二度あることは三度ある。そんな言葉が頭に浮かぶ。
一人目がイケメンの若者。二人目は普通のオッサン。一人目が若く見える三十代。二人目が老けて見える四十代。
三十代、四十代ときたので、この法則でいくと次は五十代?
いやあ、勘弁してくれよ!
しかも、五十三歳の俺より上だったら?
自分より年上の人物を弟子に取るケースなんてあったんかな?
まず、ないやろ? 困ったなあ。
喜之介は一人で困惑している。