「先日食器戸棚を整理していたら、クスリ入れのような紙袋があった。ゴミ箱に捨てよう思うたら、何やら堅いものが入っている。開けてみると新札で50万円入っていた。はは、何を買うつもりやったんかなあ」

やすさんはおいしそうにビールを呑んだ。

「気力が出えへん」とやすさんは言った。

「ボクも、良子に死なれたらどうなるかと考えた。生きていくのがめんどくさくなるような気がする」

「今のワシが正にそれや。何してもおもろない。呑みに行っても、家で貞子が待っとるから楽しいんや。家に誰もおらなんだら、呑みに行く気にもならん。仏壇の前で独り言いいながらチビリチビリやっとんねん。ほんま、詰まらんよ。お母ちゃん、早う迎えに来てくれ、そう言うとるんや。兄貴は嫂さんの七回忌を終えたらコロッと逝った。ワシもそんな気がするなあ。貞子の七回忌はオリンピックの年や。オリンピックをちょっと見て、コロッといきたいな」

夜、コオが来て、一緒に良子を見舞った。

「大変だったね」とコオは言った。
「でも、元気そうじゃん」

「あんたの方が心配や」と良子は言った。
「俺は大丈夫だよ」

「まだまだ時間はかかるの?」
とコオは訊ねた。

「分からない」
と良子は言った。

「来週中には帰れると思うけどね」
と私は言った。食事の三分粥が、半分も食べられていない。来週いっぱいは必要と私は思った。

40分ほどいて、私たちは帰った。

12月3日(木)
停滞

2日ほど前から笑顔が見えるようにはなっているが、もう一つ、すかっとした感じが出ない。回復感というものは最初の手術のあとがもっともっと顕著であった。私がそうなのだから本人は私の何倍もビクついているのかもしれない。気持ちの要素も大きいと思う。

元気がなかった。五分粥になったそうであるが、ほとんど食べていない。全部食べてしまったら大丈夫かなと心配するのであろうが、食べ残しはやはり不安である。栄養の点滴が続いているので、空腹感が出ないのかもしれない。

「今日は5回もお通じがあった」と言った。食べていないのに5回も行くとは、下痢に近いではないかと思ったが、下痢の感じではないらしい。

「ちゃんと先生に伝えるんだよ」と言った。出ないよりは良いだろうと私は思った。

次回更新は4月26日(土)、20時の予定です。

 

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