【前回の記事を読む】「開けてみると新札で50万入っていた。…はは、何を買うつもりやったんかなあ。」妻を亡くした友人が食器棚で見つけた紙袋は…

第四章 2015年(後)

12月4日(金)
退院日決定

私はいつも6時前後に家を出る。5時50分に出る場合と6時5分に出る場合と、主に2通りである。それぞれに必ず座って行ける電車が来る。

会社へは7時から7時15分の間に着く。今朝ちょっと出遅れて、間に合わぬことはないのだが、時刻の確認のため携帯電話をカバンから出した(私は時計を持っていない)。そこで着信があったのを知った。

良子から数分前である。ぞっとした。すぐに電話を入れたが通じない。電源を切ったものと思われた。病室からは発信にのみ使うように言っておいた。病人が余計な電話の対応をすべきでないと思った。

私は引き返し、病院へ行こうとした。引き返しつつ、家のあい子に電話した。

「電話、あったかい?」
「あったよ」
「何か起こったのか!」
「日曜日に退院だって」
「びっくりしたなあ、もう。また大変なことが起こったと思ったよ」
「逆だよ」
「大丈夫か? もっといた方がいいんじゃないか?」

私は再度向きを変えて、駅へ向かった。考えてみれば、大事が発生したのなら本人が電話できるはずなかった。私はひとまずほっとしたが、大丈夫か?という不安は増した。とても喜ぶ気にならなかった。

夜、良子を訪ねた。点滴針はすべて外されていた。昨日より感じは良かった。