声からして真琴の母親だろう。あずみとは面識がある。
「すみません。あの……わたし、篠原あずみといいます」
インターフォンにはカメラが付いているので顔は見えるはずだ。あずみは顔を覚えてもらっているだろうかと不安になって、カメラに向かって背伸びをする。
「篠原? ああ……あずみさんね」
櫻井夫人は思い出したように答えた。
「はい、お久しぶりです。あの……真琴は帰っていますか?」
あれから真琴の携帯にも何度か連絡をしたが、つながらなかった。
「ああ……。真琴はちょっと出掛けているのよ」
出掛けている……?
いったん処置が済んだと言われていた兄と、一緒に帰ったのではなかったのか?
真琴は、てっきり自宅に戻っているものだとあずみは思っていた。
「あの……わたし、今日のお昼に真琴と約束をしていて……」
「ああ、そうだったの」
「それで……約束していた真琴が姿を見せなかったものですから……ちょっと心配になって……」
あずみはしどろもどろに答える。
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