【前回の記事を読む】随分日時を要した。救いは、妻が首尾一貫、明るかったことである。今日も手を振って、笑顔で手術室へ入って行った。
第四章 2015年(後)
11月3日(火)
オナラ
今日は晴れて昨日より気温も上がり、気持ちの良い秋日和であった。植木屋さんが入ってくれた。この植木屋さんともここに住むようになって以来のお付き合いである。30年以上になる。
我が家の敷地は個人住宅としては平均より広いと言えるが、横浜のこととて、裏側三分の一は傾斜地になっている。そこに先住者の植えた梅、柿、椿、蝋梅が、おそらく樹齢60年以上、見事な樹勢である。
それに加えて私たち夫婦が植えた苗木が30数年前には想像できなかったほど大きく育った。
傾斜地は、樹木にとっては絶好の場所のようである。日当たりは良いし水はけも良い。
柿、梅、スダチ、ほったらかしで肥料等は一切やらないのであるが、毎年毎年、凄い量の結実をする。梅とスダチは自分で収穫するが、柿は危なくて手を出せない。小鳥たちの餌である。ムクドリ、雀、最近ではメジロが、よく飛んでくる。それを窓ガラス越しに見ている。
お昼を挟んで私一人、夕刻はあい子と二人で良子を見舞った。
コオには週末に来なさいと言っておいた。
さすがに疲れているようであった。当たり前であろう。話はしたが、声は弱々しかった。
痛みについて聞くと、「重い痛みがする」と言った。
本当は激痛が発生しているのだろうが、それを鎮痛剤で抑えているのであろう。
私は家の椿の蕾のものを、良子好みの小さな花瓶に入れた。「きれいやねえ」と良子は言った。「あけぼの」と呼ばれる椿であると思う。暖房の効いた病室では、すぐに開いてしまうだろう。蕾が、開く直前を、良子は好む。
オナラは出た? と尋ねたら、首を振った。
オナラが、腸閉塞回避の証明になる。待ち遠しい。