「牛馬よ、仁は無事か」

「運よく致命傷には至っていません。しばらく安静にすれば回復するでしょう」

「牛馬よ、仁を牛車に乗せよ。我は歩くぞ」

「弁財天さまを歩かせるわけにはいきませぬ」

「それでは、仁はどうするのじゃ」

「それは……」

「勇敢に三邪神へと立ち向かった仁を無碍(むげ)にはできまい」

「御意」

「此度は我のいうことを聞け。仁を牛車に乗せよ」

「承知いたしました」

牛馬は抱え持っていた仁を牛車に乗せた。

「酒泉よ。仁は助けた。こちらへ戻ってくるのじゃ」

牛馬が大声を出すと、三邪神を引きつけていた三人の童子がこちらに向かって駆け出した。そのとき、蜚流布が口から唾を吐き出した。その唾が運悪く酒泉童子の足に付着し、途端に動けなくなってしまった。

「酒泉よ、どうした」印鑰がいった。

「この妙な唾、餅のような粘り気があって右足が動かせん」

「なんと」印鑰は素っ頓狂な声を上げた。「心配するな、三人で引っこ抜いてやるわ」各々が酒泉童子のからだを抱え、唾に埋もれた右足を引き抜こうとした。しかし、酒泉童子の足はびくともしない。

そうこうしているうちに、蜚流布はまたしても唾を吐きかけてくる。今度は印鑰と金財のからだに唾がかかり、酒泉と合わせて三人が三人とも身動きが取れなくなった。

その隙に、瘧壓(ギャオス)が三つの首をそれぞれ三種の神器に伸ばし、口に咥えて奪った。

「万事休すか」牛馬は唇を噛んだ。

 

「牛馬よ、諦めるでない。まずは童子たちを救うのじゃ。何かできぬのか」弁財天は地団太を踏んだ。その瞬間、耳をつんざく雷鳴がとどろいた。稲妻とともに何者かがこの地に降り立った。土煙の中から姿を現したのは、見慣れた帝釈天の姿であった。

「弁財天よ、もう安心じゃ」

「そなたは帝釈天ではないか」

「いかにも。天部一の高山である須弥山(しゅみせん)より聖山の頂を眺めていたところ、偶然にもおぬしらが窮地に立たされているのが見えた」帝釈天は口の片端を上げて微笑んだ。

 

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