「はい、その少女からの通報は鳥谷巡査部長の個人携帯に直接あったのとことでして。緊急を要したことで本部に連絡せずに現場に急行されたようです。その後に深瀬さんも同様の連絡を受け現場に向かったということだそうで」
木嶋は頭を抱えながら声を漏らした。
「確かその辺りに今は使われていない蔵があったと記憶している。なぜこうもあいつらの周りには不可解な事件が起きるのか。いいか、よく聞いてくれ。現在十時を以て本事件を失踪事件から死体遺棄事件へと切り替える。初動では事故と事件の両面から捜査をするが、おそらくは他殺と見て間違いないだろう」
そういうと捜査員が敬礼をした。木嶋は大きなホワイトボードの前に立つと事件の概要を整理し始める。木嶋は大柄な体型で強面だが部下の面倒見の良い昭和の刑事という風格だった。
今から三ヶ月前の九月三十日、久原真波の恋人である横川淳一から、静岡県警に相談があった。その日、二人は映画を観る約束をしていたが、映画館に久原真波は現れなかった。そして自宅にはごめんなさいと書かれたメモが置いてあった。
科捜研により筆跡は本人のものと断定されたが、恋人の横川はその事実を真っ向から否定した。なぜなら二人は結婚の約束をした婚約者であり、久原真波は妊娠していた。
両家や友人への紹介も済ませ、挙式の日取りまで決まっていた。そんな幸せの絶頂の中、突然失踪するわけがない、そう警察に事件性を訴えていた。
【前回の記事を読む】なぜこの場所にいたのか…ずぶ濡れだった少女の靴についた泥の一部は乾きかけていた
次回更新は2月13日(木)、21時の予定です。
この物語はまだ終わらない――本編『アイアムハウス』でその先へ。
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