二
静岡県警捜査本部は藤市から車で四十分ほど南へ走った静岡中央駅から徒歩五分の位置にある。終わりの見えない廊下の先にある捜査本部で、捜査一課長の木嶋佳弘が声を張り上げた。
「鳥谷から連絡は?」
「いえ、ありません。相棒の深瀬肇(はじめ)巡査からは応援の要請が午前九時三十五分に来ており、まもなく現着予定です」
携帯を内ポケットにしまうと、静岡県警の三好和希が声を上げた。三好はインテリ風の眼鏡をかけ、無類のコーヒー好きでもある。頭をさするような仕草をして息を整えた。
「深瀬? あの無鉄砲が。胡乱(うろん)な深瀬ではなく、鳥谷の動きから目を離すな。応援要請の内容は?」
「三ヶ月前の九月三十日、突如として失踪した久原真波とされる女性の目撃証言の入電と、その第一発見者とされる少女がいなくなったとのことです」
「場所はどこだ?」
「静岡県藤市にある藤山の山中です。大通りに面した付近ですね」
木嶋が額に皺を寄せた。
「女が一人見つかって、一人消えたということか。明日は大晦日だっていうのに、避難警報が敷かれているほどの記録的な大雨だぞ。藤山なんて、なぜそんなところに子どもが一人で出歩いている?」
「私も詳しいことは聞いていません。深瀬さんも少女の姿を見ていないようです」
「見ていない? そもそも通報は県警には入っていないはずだ」