胃のバリウム検査では特別異常は認められなかったが、血液検査の結果、すい臓の炎症反応の数値が高いということだった。

「すい臓の炎症反応がかなり高いですね。う〜ん、何でだろう。毎日お酒をかなり飲みますか?」

「いいえ、最近はほとんど飲んでいません」

「う〜ん、じゃあ何でかなぁ。とにかく消化の良いものを食べるようにして、油っこいものは極力避けてくださいね」

食べ物を消化する働きが衰えているため、油分の多いものはすい臓に負担がかかり、腹痛の原因になるので避けた方が良いと医師から説明を受けた。飲酒の習慣もない若い女性がすい臓を患う原因を特定できず、医師は不思議がった。

栞は油脂分を避けた食事のせいだとすぐに分かったが、ダイエットのことは恥ずかしくて言い出せなかった。過激なダイエットがすい臓の機能に支障をきたしたであろうことは容易に想像できた。

診断は慢性すい炎。薬が処方され、定期的に血液検査をして経過観察をすることになった。薬は飲まなくてはいけなくなったが、これで高カロリーの油っこい物を食べない口実ができて、栞はむしろ楽になるような気さえした。

ダイエットが原因で油脂分を消化できなくなるほどすい臓を悪くしたのに、却(かえ)ってそれに助けられることになったのだ。

食べないことでその場に居づらいような思いをしたり、食べない言い訳を考えたり、家族とは違うものをわざわざ作って食べる愚かな行為を恥ずかしいと思う気持ちは、病気が免罪符となったお陰で薄れて、栞のダイエットは二十三歳になっても変わらず続いた。

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