アザレアに喝采を

Ⅰ 節制

「ポム・ピューレは、お肉やソースとご一緒にお召し上がりください」

栞はシェフに言われた通りに、ジャガイモのピューレを肉と一緒に口にした。久しぶりに味わう肉の旨味と、しっかりと濃い味のグレイビーソースにちょうど良い具合にジャガイモのピューレが絡む。

口にしたその時、栞ははっきりと気持ちの高ぶりを覚えた。

久しぶりの友達と近況を報告し合い、仲間の噂話に相槌をうちながらも、栞はオマール海老と肉料理を食べ終えると、魚介のフリット、骨付きのソーセージ、蒸したての点心を皿に載せた。

その後握り鮨を食べると栞は満腹になった。日頃多くは食べないため胃が小さくなっているのだろう。これ以上はもう入りそうにない。

それでも、今日だけ、今日だけ特別、明日になったらまた食べられないんだからと自分に言い訳をして、また新しい皿を手にした。フランボワーズのムースとガトーショコラを皿に載せてバニラアイスクリームを添える。

「明日になったらまた食べられない」、それは栞が自分で決めたルールなのに、明日からの食べられない生活にほとほと嫌気がさした。痩せこけた栞が、タガが外れたように食べ続ける様子は、誰の目にもどこか奇異に映った。

深紅のカクテルドレスを着た奈津子は、幸せそうに夫となった人の隣で微笑んでいる。やだ、私まだ奈津子にちゃんとお祝いを言っていない。宴が終わりに近づく頃にやっと栞が気づいた時、奈津子の方から声をかけてきた。