眠れる森の復讐鬼

海智は午前中に腹部エコーと心エコーの検査を受けた。しかし、その間も事件のことが気になって仕方がない。

しかし、そもそもこれを事件と呼んでよいのだろうか。一夏の前では大見得を切ったが、冷静に考えてみると、これを事件と思ったのは彼女が梨杏を見たという証言に基づくに過ぎない。

それがなければ、単なる医療事故とするのが妥当だろう。或いは、彼女が医療事故を誤魔化すために咄嗟についた嘘ということもあり得る。ただ、もしそうだとすると演技上手すぎだろう。女優にでもなれるかもしれない。

そんな馬鹿なことを考えていたら、朝食抜きだったので腹が減って、思考も覚束なくなってきた。「事件」について推理するのは午後にしようと思ったら昼食が待ち遠しくなったところに、桃加が部屋に昼食を運んできた。

相変わらずの仏頂面だ。例の如くトレイをテーブルに置くと挨拶も無しに出て行こうとする。「おい」と呼び止めると厚化粧の顔が振り返った。

「何よ」

それが患者に対する態度かと腹が立ったが、彼は冷静さを保ち、続けた。

「中村大聖が死んだの知っているだろう」

「それがどうしたのよ」

「それがってお前ら仲間だったろう?」

「別に。つるんでいたのはもうだいぶ昔のことよ。最近じゃ顔も合わせなかったわ」

「お前、大聖が死んでも何とも思わないのか?」