「あんた、さっきから人のことをお前、お前って失礼だろ。患者だからって偉そうにするんじゃねえよ」

(相変わらず口汚い女だ。それにしても薄情な奴だ。悪友とは言え、あれだけ仲良さそうにつるんでいたのに、昨夜死んだと聞いても眉一つ動かさない。これがこいつの真骨頂なんだろう)

「無茶な運転してたんだから自業自得だろ。私には関係ないね」

「信永梨杏のことはどうなんだ?」

桃加の表情が一瞬引き攣ったように見えた。厚化粧の下の皮膚が俄かに紅潮し、眼に怒りの輝きが見えた。

「あんたには関係ないだろ」

声を荒げると彼女は踵を返し、部屋を出て行った。

「関係あるさ」

海智は一人呟いた。関係ある。自分に好意を寄せてくれた女の子が目の前で虐められても、酷いことをされて焼身自殺を図るまで苦しみ抜いても、あの時彼は何もしてやれなかった。その後悔と虚しさが今でも彼を苦しめている。今回のことでそれがはっきり分かった。

ここでこの事件を解決しなければ、今まで以上に己を責めながら生きていかなければならない気がする。彼は昼食のチャーハンを凄まじい勢いで口の中に掻き込んだ。

殊勝な決意をしたばかりなのに、満腹になると今度は眠くなってきた。人間というのは都合がよいものだ。こう眠くては正しい推理はできそうにない。海智がそう思っていると、風呂の時間が迫っているのに気付いた。

毎日風呂に入れるのは有難いが、予約時間を逃すと次の日までお預けになる。慌てて替えの下着を用意してシャワー室に向かった。

浴槽も予約はできるが、こちらは時間がかかるし人気もあって、予約を取るのが難しい。それに海智の場合、風呂に浸かると余計倦怠感が酷くなる。シャワーで体を洗い流すと下着だけ替えて、同じTシャツとジャージを身に着けた。