四 波乱万丈の里山生活

その五 キツネさんの御成り

カラスさんがすかさず言います。

「何だよ、それは。キツネさんが女性に見えたのかい。人間は本当に目が悪いのじゃないかい」

黒猫さんが言います。

「本当の人間の女性なら、そんな夜中に歩いているなんて、もっと不気味な人間かもしれないよ」

今度は三毛猫さんが、思い出したように小声で言い出します。

「前の家の主人も言ってたけど、夜が怖いって。暗闇で何かが動くだけで、幽霊じゃないかと思うらしいわ。人間は暗闇が本当に苦手のようね。だから、夜も明かりを点(つ)けっぱなしにするのかしら」ぎんちゃんが言います。

「今は、道にも明かりがしっかりとあり、夜の恐怖心は少なくなってきたけど、明かりがない森の中に入ったら、人間はパニックになると思うよ。DNAに、古代からの森への恐怖があったのだろうね。熊、狼に食われてしまうとかね」黒猫さんが言います。

「笑ってばかりいられない共感が、少しあるかな。おいらの祖先も、蛇は大嫌いだったようで、おいらも長いものが落ちて来たら、びっくりして飛び上がってしまうよ。その恐怖心と同じかもね」

それを聞いていたカラスさんは、まだ会ったことがないキツネさんに、ますます会いたくなりました。しかし、キツネさんは、カラスさんとは昼夜逆転の生活スタイルの生き物ですから、なかなか会えないのかもしれません。

カラスさんは、ぎんちゃんに言います。 

「おいらもキツネさんに会いたいから見つけるよ。一度でいいから、その化かし合いとやらを見てみたいね」

ぎんちゃんは、また話がややこしくなりそうなので、これで終わりにしました。 

さて、どうやってキツネさんを見つけるか、とカラスさんは思案しています。

「聞けるのはイノシシさんしかいないから、ご機嫌伺いということで聞いてみよう」

ぎんちゃんの興味本位のお願いに便乗して、おいらも聞きたいなんて言わないように決めました。