第一章 新生

「ジェローム様のご返事は何と?」

「ふん、あんな者は何の遣いにもならぬわ。再三尻(しり)を突いてはみたが、あの倅ではまだまだ親父を説得するのは無理のようだ。何か策を練って、カザルスがどうぞと、自ら鍛冶職人の二人や三人差し出してくるような手を考えねばならぬが……」

異母弟の自分よりも、兄王は同い年の従兄弟カザルスと親しい関係だ。

先手を打ったカザルスに対して、普通にあたればどうしたって自分の方が分が悪い。そこがアンリの悩みの種であり、思案するところだが、手に入れがたいとなればなるほど、彼の執着は募っていくのだった。

 *

「おい、栗色の巻き毛の少年が来なかったか?」

バルタザール・デバロックは厩舎(きゅうしゃ)の前で馬の蹄(ひづめ)を削っている若い馬番に声をかけた。馬番は顔を上げると、いいやと言うように首を振った。

バルタザール・デバロックはここプレノワールの領主グザヴィエ・アントワーヌ・カザルスが全幅の信頼を置く側近で、世間では「カザルスの宝刀」とまで称されている男だ。

漆黒の髪に何もかも見透かしてしまうような涼やかな瞳、精悍(せいかん)な表情の彼は、もとは奴隷の子だがカザルスが見出(みいだ)し、ここまで俊英な懐刀(ふところがたな)に育て上げた。

カザルスを守るためには、いつでも牙を剥く恐るべき男だが、一方で馬番たちのような者には気取りがなく、辛辣な口ぶりで気安く応じてくれるところがある。

「今日、馬を選びに来るとおっしゃっていた、ヴァネッサの少年のことですかい?」

仕事の手を休めた馬番に、バルタザールはああと頷く。