第一章 新生

「お前がオージェから乗って帰った馬だが、あれは見るからに老いぼれているから別のをあてがってやってくれとカザルス様からのお言葉だ」

先に話がつけてあったとみえて、厩舎の入口付近に三頭の馬が揃えてある。さあどれでも好きなのを選べ、とバルタザールはラフィールに促した。

「あいつはおとなしくてよく言うことを聞くんですよ」

愛着のある馬を代えろと言われて、ラフィールはちょっと不服だが、せっかくのお言葉だ、ありがたく拝領しておけと言われれば仕方がない。

繋がれていたのは黒い若駒が二頭と、落ち着いた貫禄の芦毛(あしげ)が一頭。やっぱりこいつかな、とラフィールが芦毛の鼻を撫でている横で、バルタザールが馬番と心安そうに自分のことを話題にしている。

「しばらく前に戻ってきたんだが、一度カザルス様に顔を出したあと、すぐラトリスへ行っていたんだ。これからはここにいることが多くなると思うから、よろしく頼むぞ」

バルタザールがそう言うと、厩舎の中にいた他の馬番たちも作業の手を止めて一斉にラフィールに目を向けた。

飼い葉桶の前にいた馬番が、初対面のラフィールをさも懐かしげに眺めて、その子がねえと呟(つぶや)けば、他の馬番たちもなぜか親しげな表情を送ってくる。

ラフィールは何とも妙な心持ちだ。ふいに思いついたように目の前にいた馬番が、厩舎の奥を指差した。

「そうだ! お前、あれに乗ってみないか?」

「やめとけ、やめとけ」

傍で聞いていた年寄りの馬番が噴き出している。辺りにぷんと酒臭さが漂う。

馬番が指差す先を見れば、厩舎の一番奥に一頭の栗毛の馬が繋がれていた。たてがみは体毛よりも一層明るい色をしている。

裏口から差し込む陽を受けて、その馬だけが特別に輝いているように映った。馬にも品格というものがあるとすれば、表に並べられた三頭とは明らかに別格の風情がある。