あの日、村を解放するために戻ってきたシルヴィア・ガブリエルの、馬上から自分たち村人に叫んだ姿がラフィールの脳裏にまた蘇る。
僕らはやっと外に出られるんだ!
そう歓喜したラフィールの目にシルヴィア・ガブリエルのその姿は神々しく、今も焼き付いている。
あの時も彼はこの馬に跨っていたに違いなかったが、ラフィールには馬の姿までは覚えがない。
そうか、お前だったのか……。ラフィールの胸に痛いような懐かしさが込み上げた。彼は愛おしむように馬の鼻に自分の額を押し当てる。
それから、たてがみを掴むとひょいと馬の背に跨った。たてがみを掴もうとした時、馬は少しぶるんと首を振ったが、あとはおとなしく彼のなすがままになり、首を撫でてやると、ラフィールを乗せてゆっくりと裏庭を旋回しはじめた。
「ほう、これでやっと新しい乗り手が見つかったぞ」
息を詰めながら様子を窺っていた馬番たちは、一斉に歓声を上げ、囃し立てた。
「やっぱり、お前が乗ることになっていたんだな。お前の兄がアンブロワのシャルル様の従者に召し抱えられるきっかけを作った馬だ。エトルリアっていうのがそいつの名前さ。形見だから大事にしてやるんだな」
バルタザールは眩しそうに目を細めた。
厩舎を出たあと、ラフィールはバルタザールに連れられてイダという医者の住まう庵に向かった。
【前回の記事を読む】十六歳になったばかりの少年、ラフィール。近寄りがたかった美貌を持つ兄ガブリエルに比べると、親しみやすい表情をしているが…
次回更新は11月24日(日)、18時の予定です。