第一章 新生
現王が父とともにこの国を平定し、二十年前に王位を継承した際、まだ十九だったアンリにシャン・ド・リオンの統治を任せたのは、身内の情からではない。
アンリは、少し間延びしたような頬に、とろんとした目元、頬の広さから比べれば小さすぎるほどの口に薄い唇、表情に乏しく、まるで無愛想が服を着込んだような男だった。
愚鈍そうにさえ見うけられるのだが、その見せかけの風貌は人を欺いている。何の面白みもない無表情の裏で、彼は冷ややかなほどに冴えた思考を巡らし、したたかな計算をする。
十五になるまで口を利いたこともなかった兄を家長として支えるのは、自らの家系によるこの国の支配をより磐石(ばんじゃく)にしておく必要があると考えるからだ。
何も慌てることはない。自分は王より十六も若い。熟した一番美味しい果実をあとでゆっくり収穫すればよいのだ。悠長すぎる時をかけて、アンリはじっと来るべき時を待っていた。
「あの好事家(こうずか)のカザルスがいつもながら奇異なことをするものよと嘲(あざけ)って見ておったが、魔境を思い切って開けたら宝の山だったとは、プレノワールも巧くやったものだ。なあ、レミよ」
アンリは傍に侍(はべ)るレミ・ダンテルに同意を求めた。
間延びした馬面をアンリだとすれば、レミはどこか猛禽類(もうきんるい)のような油断のなさを感じさせる顔立ちだ。レミは、アンリがこのシャン・ド・リオンの統治を任された十九の折、役に立つ男だからと兄王がつけてよこした城代の倅(せがれ)だ。
三つ下のレミは、ここで従者として修行をし、城代であった父が亡くなってからは、その任を受け継いでいる。長い付き合いであるからこそ、アンリの心中のことはよく察して、多くを語らずとも動いてくれる貴重な男だ。