「まことに。ギガロッシュに隠れ住んでいた民など、誰が好き好んで受け入れるものかと、周辺の諸侯方も皆呆れ返っていたものでございますが、今ではどなたも指をくわえていらっしゃいます」
「しかし、なぜあんな所に隠れ住んでいた者らが、これほどの技を持てたのであろうか?」
アンリにはそれが信じられないところだ。
「聞いたところによれば、どうも生まれた子どもを一つ所に集めて育て、まずは生まれつきの資質を見定めるのだそうでございます。その上で最もふさわしい親方が誰彼の区別なく子どもを預かり、技を仕込むのだそうで、まあ、好きこそものの上手なれと申しますように、よく上達するのでございましょうね。そこに山向こうの異民族からの知恵も加わり、我らの世界にはないような技能が生まれたようでございます」
ほうと感心するアンリに向かって、レミはさらに言葉を続けた。
「そもそもが、村の救出のためにやって来た青年が、その手段として自分たちの持てる技の有用性を説いたというのでございますから、珍しいものがお好きなカザルス様のもとへ向かったのは道理でございましょう」
マテウス河以東でアンリと並ぶ勢力を持つプレノワールの領主グザヴィエ・アントワーヌ・カザルスは、王と同い年の従兄弟だが、審美眼に優れ、様々な工芸品の蒐集家(しゅうしゅうか)としてその名を馳せていた。
「カザルスのところは随分潤っておるのであろう? 鍛冶(かじ)の技能の他にも象嵌(ぞうがん)や彫金も卓越し、それらが今や交易品としてかなりの利益を生んでおると聞いた」
「はい。他にも染色、織物の技術も優れ、とりわけ山羊の毛織物は素晴らしいと評判でございます」
「ギガロッシュの民ならば、そもそもあの者らの祖先の出処(しゅっしょ)を辿れば、獲物の分配を求めてもよさそうなものではないか。そんな申し立てをする諸侯もおるのであろう?」