村を救い出すために最初に一人でこちらの世界に来た青年シルヴィア・ガブリエルは、身元を偽り、アンブロワのシャルルの従者となったが、その後カザルスに気に入られてからは、殆どこのプレノワールで過ごすようになっていた。

その折、馬の扱いに非常に長(た)けていた彼は、ここの厩舎の馬番たちに随分その技を伝授したものだ。そんなこともあり、身元が判明する前も、判明したあとも、この厩舎の連中だけは恐れることもなく彼と親しく接していた。

この少年が彼の弟ということであれば、馬番たちには特別な思いが湧く。

「あれじゃありませんか? そのラフィールってのは」

馬番が顔を向けた先で一人の若者が物珍しそうに城壁を見渡して立っていた。

おい、と声をかけると、気づいたラフィールは嬉しそうにこっちへ向かってきた。

先々月十六歳になった少年の体つきはまだしなやかだ。栗色の巻き毛を伸ばした少年はどこかまだあどけなさを残し、孤高の、近寄りがたかった兄の美貌に比べれば、健康的でずっと親しみやすい表情をしている。

一瞬の時に命を輝かせた兄と、緩やかな時の中で幸福を享受する弟。

バルタザールが初めて会った頃には、二人の容貌には授かった運命の違いがそのまま表れているように思えたが、少し成長してオージェで再開したあとは、ふっと微笑んだ頬の辺りに、この弟にも兄と同じ面差しを感じている。

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次回更新は11月23日(土)、18時の予定です。

 

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