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「あたしはずっとこの村にいるつもりはないのよ。街で怖い目に遭って逃げ帰ってきたけど、ジョジョが乗りこんだからには安心できないわ」

「だって、あいつはニコのことできたんだし、お前だとは気がつかなかったんだから、もう心配なんかするなよ。仮に思い出したところで、あの時はどうもってくらいのことだろ。もう一年も前の話じゃないか」

キーラはエゴルの話などまるで聞いていなかった。指でつまんだケースを無意識にぶらぶらさせながら、舌の先で頬の内側をなぞり回していたが、はたと気づくと許可証をダッシュボードに戻し、こちらを見た。

「ねえ、あんたの車であたしを自治県まで運べる?」

キーラはねだるような口ぶりでエゴルの顔を覗きこんだ。

「運ぶって、向こうに連れていって置いてくるってことか? そりゃ無理だろ。検問でちゃんと人数は確認されるよ」        

「馬鹿ね。あたしは後ろのトランクに隠れていくのよ」

「おいおい、変なことに俺を巻きこむなって。そんなのが見つかったら俺の許可証は没収だし、へたすりゃタクシー業務の認可まで取り消しさ。頼むからそういうことを考えないでくれ」

エゴルはキーを回してエンジンをかけようとしたが、キーラは咄嗟にその手を握った。